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われはロボット (早川書房) アシモフ作 小野芙佐訳

アイザック・アシモフの短編集「われはロボット」は1950年に発刊された。ある女性ロボット博士の回想録という設定で展開されている。約100年後のロボット社会を想定したSF作品であるが、現代の私たちが読んでも考えさせられることが多い。ぜひ、一読されることをお薦めします。

1.ロボット工学の三原則

 この本で最も有名な言葉で、ロボットに関する
記載で頻繁に引用される言葉である。

第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。
    また、その危険を看過することによって、人間に
    危害を及ぼしてはならない。
 第2条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しな
    ければならない。ただし、あたえられた命令が、
    第1条に反する場合は、この限りではない。
 第3条 ロボットは、前掲第1条および第2条に反する
    おそれのないかぎり、自己をまもらなければなら
    ない。
           ー『ロボット工学ハンドブック』ー
            第56版、西暦2058年

この言葉を①安全で、②役に立ち、③丈夫であること、と読み替えるといった人もいるようですが、まさに、よく考えられた内容で反論のしようがない。
しかし、我々の現実社会できちんと実装するのは簡単なことではない。第1条に類する安全基準等が国際規格(ISO)として検討されているが、すべての場合に人間に危害を加えないということは非常に難しい。倫理観としては正しいが、いざ作りこむにはかなりの労力がいる。正常動作だけでなく、異常時の処理も含めてすべてを網羅するのは至難の業である。何しろ、作りこむのは人間であるから、”完全”ということはない。将来にわたっても大きな課題となるだろう。
なお、ロボット工学ハンドブックが56版という表現は、大変”芸”の細かい記述である。56回も改版されているということは、いかに修正や変更が必要であったことが想像され、大変興味深い。

2.ロボ心理学者 

この本でもう1つ興味を持ったのは、ロボットが不可解な行動をした場合、
それを解き明かすために、たびたび登場する”ロボ心理学者”である。
通常、コンピュータのプログラムの不具合の場合は、エンジニアが原因を調査し
て修正するのであるが、この本では、不具合を”ロボットの不可解な行動”として
表現
し、”ロボ心理学者”がロボットとの対話をしながら見事に解明していく。
将来、高度な頭脳を備えたロボットが現れ、そのロボットが突然に不可解な行動
をとった場合は、エンジ
ニアによる単なるデバッグでは手におえず、”ロボ心理
学 者”によるカウンセリングが必要になる時代が、現実にやって来るかもしれない。